大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成2年(ワ)549号 判決 1992年2月28日

原告

文田住建株式会社

右代表者代表取締役

文田博雄

右訴訟代理人弁護士

直江達治

被告

大上磯和

山口正之

井上昇

藤本和男

大上惠三

大上公一

右被告六名訴訟代理人弁護士

酒井隆明

主文

一  被告らは、原告に対し、別紙物目録記載の土地について、平成元年一〇月二四日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(第一次的請求)

主文第一項と同旨

2(第二次的請求)

被告らは、原告に対し、別紙物件目録記載の土地について、平成元年一二月五日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3 主文第二項と同旨

(なお、第一次的請求と第二次的請求とは、選択的に求めるものである。)

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(第一次的請求)

1(停止条件付売買契約の締結)

原告は、平成元年一〇月二四日、被告大上磯和、被告山口正之、被告井上昇、被告藤本和男、被告大上惠三及び亡大上正孝(以下それぞれ「被告磯和」、「被告山口」、「被告井上」、「被告藤本」、「被告惠三」、「亡正孝」といい、右六名を合わせて「被告ら」ともいう。)との間に、原告を買主・右被告ら六名を売主として、右被告ら六名の共有にかかる別紙物件目録記載の土地(以下「本件山林」という。)について、左記の約定による売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、右約定のうち、特約事項について、同日覚書を作成し、売主である被告ら全員がこれに押印した。

(一) 売買代金一億八七一八万円

坪(3.3平方メートル)当り金三万五〇〇〇円とし、地積については一応公簿面積によって役所への届出価格を算出するが、その後本件山林を実測したうえ、実測面積に右坪単価を乗じた価格を最終価格とし、精算する。

(二) 実測は原告の方で手配することとし、その費用も原告が負担とする。

(三) 実測を行う期日は平成元年一一月三日とし、被告らもこれに立会い協力する。

(四) 本件山林は調整区域であるため、国土利用計画法(以下「国土法」という。)二三条一項の届出をし、兵庫県知事から同法二四条一項の規定に基づく勧告をしない旨の通知(以下「不勧告通知」という。)のあることを停止条件として売買の効力を生ずることとし、正式の契約書は不勧告通知後に作成する。

(五) 原告は、不勧告通知後遅滞なく、手付金二〇〇〇万円、中間金一〇〇〇万円を支払う。

(六) 被告らは、被告磯和を売主全員の代表者に選び、国土法の届出、契約書の作成など書面には被告磯和が代表として署名捺印すること、また、契約の細部についても、被告磯和が売主の窓口となり、原告との間で協議し、決定する。

2(不勧告通知の受領等)

原告は、本件売買契約に基づき、平成元年一〇月二五日兵庫県知事宛に「土地売買等届出書」を提出し、同年一一月三日には約定どおり被告らからも二名が立会して、本件山林の測量が実施され、同年一一月三〇日、兵庫県知事からの同年一一月二八日付不勧告通知書を受領した。

3(手付金・中間金の交付)

そこで、原告は、本件売買契約に基づき、平成元年一二月五日、被告らに対し、手付金二〇〇〇万円及び中間金一〇〇〇万円、合計金三〇〇〇万円を被告らの代表者である被告磯和の銀行口座に振込んで支払った。

(第二次的請求)

4(停止条件付売買の予約)

仮に、前記1記載の平成元年一〇月二四日の合意が、停止条件付売買契約とみられないならば、右合意は、兵庫県知事の不勧告通知を停止条件とする売買の一方の予約である。

5(予約完結権の行使)

原告は、兵庫県知事の不勧告通知受領後である平成元年一二月五日、前記3記載のとおり手付金二〇〇〇万円及び中間金一〇〇〇万円を振込むことにより、売買を完結する旨の意思表示をした。

6 亡正孝は、平成二年三月一九日死亡し、その相続人である大上良子、大上正代、進藤博美及び坊ケ内秀子の四名は、相続により、亡正孝が生前有していた本件山林に対する六分の一の持分を取得するとともに、そのころ、これを被告大上公一(大上正代の夫)に贈与した。

7 よって、原告は、被告らに対し、本件山林につき、第一次的請求として、平成元年一〇月二四日売買を原因とする所有権移転登記手続を、第二次的請求として(第一次的請求と選択的に)、平成元年一二月五日売買を原因とする所有権移転登記手続を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1の事実のうち、被告らが本件山林を共有していたこと、被告らが平成元年一〇月二四日覚書に押印したことは認めるが、その余の事実は争う。

国土法の規定に基づく届出は、売買契約成立の要件であって、これが未了であるのに当事者間の売買契約が成立することは、一般的に考えられないところである。そして、本件においても、平成元年一〇月二四日に原告と被告ら間に成立した合意は、確定的な売買の合意ではなく、あくまでも国土法の届出に向けての覚書にすぎず、現に、同覚書には、「売買契約は、国土法に基づく土地売買届出を行い、勧告をしない旨の通知を受けた後とする。」旨が定められている。

なお、原告と被告ら(ただし、被告井上を除く。)間に本件山林についての売買契約が成立したのは、後述のとおり、平成元年一二月五日である。

2  同2の事実のうち、平成元年一一月二八日付で兵庫県知事から不勧告通知がなされたことは認めるが、その余の事実は争う。

3  同3の事実のうち、平成元年一二月五日、原告から被告磯和の銀行口座に金三〇〇〇万円が振込まれたことは認めるが、その余の事実は争う。

原告からの右送金については、手付金・中間金との趣旨及び金額がなんら事前に決められておらず、原告の一方的な送金であった。

4  同4の事実及び主張は争う。

5  同5の事実及び主張は争う。

6  同6の事実は認める。

三  被告らの抗弁(手付け交付による解除権留保)

1  原告は、平成元年一二月五日、被告らの代表者格の被告磯和方に本件山林の売買契約書を持参し、そして、同被告がこれに署名捺印し、被告山口、被告藤本、被告惠三及び亡正孝の四名も、後日、原告との間に本件山林の売買契約を締結する権限等を被告磯和に委任する旨の委任状を提出することにより、被告井上を除く被告らは、平成元年一二月五日、原告との間に、本件山林を原告に売却する旨の売買契約を締結し、同日、原告から、手付けとして金二〇〇〇万円、中間金名下に金一〇〇〇万円の交付を受けた。

2  被告らは(被告井上については売買契約が成立していないけれども)、原告に対し、平成二年三月一二日到達の書面をもって、手付契約に基づき右売買契約を解除する旨の意思表示をするとともに、同月二八日、原告に対し、右手付金の倍額に相当する金四〇〇〇万円及び中間金名目で受領していた金一〇〇〇万円、以上合計金五〇〇〇万円を現実に提供したところ、その受領を拒絶されたので、同年四月九日、右金員を神戸地方法務局西宮支局に供託した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、原告と被告らとの間に本件山林の売買契約が締結されたのが、平成元年一二月五日であるとの主張は争い、その余の事実は認める。

原告と被告らは、平成元年一〇月二四日、本件山林の売買契約を締結している。

2  同2の事実は認める。

五  再抗弁

1(契約の履行の着手による解除権消滅)

(一)  本件山林の売買契約は、兵庫県知事の不勧告通知を停止条件として、平成元年一〇月二四日、原告と被告ら間に成立していることは、前記一、1に記載のとおりであり、民法五五七条の「履行ノ着手」とは、債務の履行行為の一部をなし、または履行をなすために必要な前提行為をなすことである。

(二)  そこで、原告は、本件売買契約に基づき、

(1) 平成元年一〇月二五日、原告及び被告ら双方が協力して、国土法二三条の届出をなした。

(2) 次いで、同年一一月三日、被告らから隣地所有者に連絡し、隣地所有者立会のもとに、原告及び被告らが協力して、本件山林の測量を実施した。

(3) 原告は、知事の不勧告通知受領後の平成元年一二月五日、被告らに対し、本件売買契約に基づく中間金一〇〇〇万円を支払った。

(三)  右(1)なしい(3)は、いずれも契約の履行行為であり、買主がこのような履行行為をした後になされた売主の契約解除は無効である。

なお、本件において、手付けの授受が契約締結時である平成元年一〇月二四日ではなく、兵庫県知事からの不勧告通知が届いた後である同年一二月五日になされているのは、国土法を考慮して、不勧告通知までは手付けの授受を控えたという特殊事情があり、さればこそ、手付けの授受が遅れて、知事への届出が先になった本件の場合においても、売主と買主が連署のうえ国土法二三条による届出申請を知事宛に提出したときには、契約の履行に着手したものと解すべきである。

2(権利濫用)

原告と被告らは、本件山林の坪単価についての交渉を重ねた結果、坪当り金三万五〇〇〇円と決ったので、双方売買完成へ向かっての細かい話合いをし、覚書を作成して実測取引とすること、実測への立会協力、進入路、水路についても被告ら側で協力を約束し、さっそく国土法の手続にかかり、一か月余りで不勧告通知を受領することができた。その間、平成元年一一月三日には、被告らの協力を得て、隣地所有者の立会のもとに、本件山林の現地測量が全費用原告負担で実施された。

かかる状況下において、いざ契約書を作成し、決済日を具体的に取決めるという段階に至り、被告らは、本件山林をより高値で他に売却できそうだとの思惑により、手付契約に基づく解除権を行使したものであって、極めて身勝手な態度というべく、権利の濫用として許されない。

六  再抗弁に対する被告らの認否

1  再抗弁1の事実及び主張は争う。

履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手することであるところ、国土法の届出行為は、契約の成立のための行為にすぎず、本件山林の実測も、正しい売買代金を算出するためのものであって、契約成立の場面の問題にすぎないから、いずれも買主の履行行為とはいえず、中間金の支払いについては、本件においては、事実上契約成立の日である平成元年一二月五日に手付けと同時に支払われたもので、名目だけの「中間金」にすぎないから、「履行の着手行為」に該り得る中間金の支払いとはいえない。

2  同2の事実及び主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一先ず、原告主張の停止条件付売買契約が締結されたか否かについて判断する。

1  被告らが本件山林を共有していたこと、被告らが平成元年一〇月二四日覚書に押印したことは、当事者間に争いがない。

2右1の事実に、<書証番号略>、証人鈴木正則、同文田勝造の各証言、被告大上惠三(一部)、被告大上磯和(一部)、被告井上昇(一部)各本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  本件山林は、被告らが、昭和四二年ころ、陶土の山ということで、採掘目的で共同で買受け、各自六分の一ずつの共有持分を有していた。

(二)  原告は、不動産取引を業とする株式会社であるが、平成元年七月ころ、原告の取引銀行である太陽神戸銀行(現太陽神戸三井銀行)塚口支店の黒沢支店長(以下「黒沢支店長」という。)から、本件山林の購入方をもちかけられ、同月二七日、原告代表者、黒沢支店長らが現地に赴き、被告井上、被告惠三及び亡正孝の案内で本件山林を実地に見て回った。その際、被告井上らから、「本件山林を坪当り金五万円で売りたい。」旨の打診がなされたが、原告代表者は、進入路が狭いことや、南端に他人所有地がくい込んでいる等の理由から、「坪当り金二万円程度でなければ買えない。」旨を回答し、結局、原告としては、本件山林の購入に気乗りがしなかったため、いったんこれを断った。

(三)  その後同年八月下旬ころに至り、本件山林の売買の話が、黒沢支店長を介し、原告と被告ら間で再燃し、原告は、黒沢支店長に対し、「坪当り金三万二〇〇〇円ないし金三万三〇〇〇円なら買う。」旨を表明したところ、被告らは、同年九月七日夜、全員三田市の亡正孝宅に集まり、黒沢支店長の同席を求めたうえ、本件山林の売渡価格について協議した結果、本件山林を坪当り金三万五〇〇〇円で原告に売却することに決め、黒沢支店長に対し、かかる被告らの意向を原告代表者に伝達してくるよう依頼した。

そこで、黒沢支店長は、原告代表者に右被告らの意向を伝えたところ、原告代表者もこれを了解し、本件山林売買についての契約を来る同年一〇月二四日に行うこととなった。

(四)  平成元年一〇月二四日午後三時ころ、被告らのうち被告山口を除く全員が、原告事務所の会議室に参集し(ただし、被告山口は委任状を交付していた。)、原告側からは、原告代表者、開発部長、経理部長が出席し、さらに黒沢支店長、株式会社サンロイヤル(仲介業者)の従業員鈴木正則(以下「鈴木」という。)も同席のうえ、原告と被告らとの間で、本件山林の売買の具体的内容について協議がなされ、その結果、左記の内容の合意が成立した。

(1) 売渡価格は坪当り金三万五〇〇〇円とし、地積については一応公簿面積である一万七六八〇平方メートルによって役所への届出価格を算出するが、その後で実測をしたうえ、実測面積に右単価を乗じて算出した価格を最終価格とし、精算する。

(2) 実測は原告の方で手配することとし、費用も原告が負担する。

(3) 実測を行う期日は、平成元年一一月三日とし、被告らもこれに立会い協力する。

(4) 本件山林は調整区域であるため、国土法二三条一項の届出をし、兵庫県知事から同法二四条一項の不勧告通知のあることを停止条件として売買の効力を生ずることとし、正式の契約書は不勧告通知後に作成する。

(5) 原告は、不勧告通知後遅滞なく、被告らに対し、手付金二〇〇〇万円及び中間金一〇〇〇万円を支払う。

(6) 被告らは、被告磯和を被告ら全員の代表者に選び、国土法の届出、契約書の作成等書面には被告磯和が代表として署名捺印すること、また、契約の細部についても被告磯和が売主の窓口となり、買主との間で協議し、決定する。

(7) その他

(イ) 被告らは、本件山林への進入路として現状の進入路は確保する。

(ロ) 被告らは、隣接地境界の明示及び水利権者の排水同意を書面にて得る。

そして、被告らは、右合意中の(1)、(4)及び(7)の事項については、同日、これを特約事項として記載し、かつ、「被告らが本件山林を原告に売渡したく」と明記した覚書を作成し、被告ら全員が持参した実印を押捺した。また、国土法の土地売買等届出書に添付する「本件山林について譲渡に同意する」旨記載された譲渡同意書にも被告ら全員が署名して実印を捺印し、かつ、それぞれ持参の印鑑証明書を原告に交付するとともに、右土地売買等届出書の譲渡人欄には、被告磯和が、売主たる被告らの代表者として署名押印した。

さらに、同日被告らは全員、本件山林の売却代金を入金して貰うための預金口座を、太陽神戸銀行塚口支店にそれぞれ開設した。

(五)  原告は、右一〇月二四日の合意にしたがって、平成元年一〇月二五日、兵庫県知事宛に「土地売買等届出書」を提出し、同年一一月三日、予定どおり、原告が費用を全額負担して本件山林の測量が実施され、被告らから二名、隣地所有者四名が立会った。

そして、原告は、同年一一月三〇日には、兵庫県知事から同月二八日付の不勧告通知書を受領した。

(六)  そこで、原告は、同年一二月五日、前記合意に基づき、被告磯和と電話で話し合い、了解を得たうえで、手付金二〇〇〇万円及び中間金一〇〇〇万円を被告磯和名義の前記銀行口座に振込み、翌六日には、原告の代理人である鈴木が、被告磯和のもとに本件山林についての売買契約書を持参し、被告磯和に右契約書の売主欄に売主たる被告ら全員の代表者として署名捺印することを求めたところ、被告磯和は、なんらの異議も述べず、これに応じた。また、その際、被告磯和は、太陽神戸銀行塚口支店に電話をかけて、入金の事実を確認しただけで、その余の売主に相談することなく、前記手付金二〇〇〇万円及び中間金一〇〇〇万円の趣旨及び金額についても何らの異議も述べずに、手付金及び中間金の領収書を作成し、鈴木に交付した。

(七)  なお、被告磯和は、右売買契約書に署名捺印するに際し、原告の方で「他の被告ら全員から、売主全員が、被告磯和に原告との本件山林の売買契約締結及び手付金・中間金の受領に関する一切の権限を委任する」旨の委任状を徴収して貰いたいとの依頼を受け、鈴木において右委任状を集めに回ったところ、被告井上以外の各売主からは、いずれも各人が署名捺印をした委任状の交付を受けたが、被告井上は、かかる時点に至ってはじめて「本件山林を原告に売った覚えはない。」旨を主張し、前記委任状の交付を拒絶した。

以上の事実が認められ、右認定に反する被告大上惠三、被告大上磯和及び被告井上昇の各供述は、前掲各証拠と対比してにわかに信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

3  右2で認定した各事実を総合するならば、原告は、平成元年一〇月二四日、被告らとの間に、本件山林について、原告を買主・被告らを売主として、兵庫県知事の不勧告通知を停止条件とする売買契約(「本件売買契約」)を締結したものであることは明白というべきである。

4  なお、被告らは、(イ)国土法の規定に基づく届出が売買契約成立の要件であって、これが未了であるのに当事者に売買契約が成立することは、一般的に考えられないこと、(ロ)平成元年一〇月二四日に作成された覚書には、「売買契約は、国土法に基づく土地売買届出を行い、勧告をしない旨の通知を受けた後とする。」旨が定められていることを根拠に、平成元年一〇月二四日に原告と被告ら間に成立した合意は、確定的な売買の合意ではなく、あくまでも国土法の届出に向けての覚書にすぎない旨を主張する。

しかしながら、本件における国土法二三条一項の届出が売買契約の成立要件であり、かつ、罰則規定されているからといって、そのことのみから、右届出前に、知事の不勧告通知を停止条件とする売買契約の締結が一般に行われ得ないものとはにわかに認め難いところであるし、右覚書の記載の意味内容についても、前記2の冒頭に掲記の各証拠を総合すれば、前記2(四)(4)で認定のとおりに解すべきであるから、右(イ)(ロ)の諸点はなんら前記3の認定説示の妨げとなるものではなく、他に被告らの前記主張事実を認めるに足る証拠はない。

よって、この点に関する被告らの主張は失当というべきである。

二そこで、被告らの抗弁について判断する(もっとも、被告らの抗弁は、原告と被告ら間の本件山林の売買契約が、平成元年一二月五日にはじめて成立したとの事実を前提としているが、同年一〇月二四日成立の本件売買契約に対する抗弁と解する余地もあるので、念のために判断しておくこととする。)。

1  原告が、平成元年一二月五日、本件売買契約に基づき、被告らに対し、手付けとして金二〇〇〇万円、中間金として金一〇〇〇万円を交付したことは、前記一2(六)で認定のとおりであるところ、抗弁2の事実は当事者間に争いがない。

2  しかしながら、前記一2において認定したところによれば、(1)原告と被告らは、平成元年一〇月二五日、本件売買契約に基づき、双方が協力して国土法二三条の届出をなし、(2)次いで、原告は、同年一一月三日、本件売買契約に基づき、本件山林の売渡価格算定の基礎となる本件山林の実測を、原告の全額費用負担のもとに実施し、(3)次いで、原告は、兵庫県知事の不勧告通知受領後の平成元年一二月五日、被告らに対し、本件売買契約に基づく中間金一〇〇〇万円を支払ったこと、以上の事実が認められる。

そして、証人鈴木正則、同文田勝造の各証言によると、本件売買契約においては、手付けの授受が、契約締結時の平成元年一〇月二四日ではなく、兵庫県知事からの不勧告通知が届いた後である同年一二月五日になされているのは、国土法を考慮して、不勧告通知までは手付けの授受を控えたためという特殊事情があったことが認められるから、本件のように、手付けの授受が遅れて、国土法の届出が先になった場合においても、売主と買主が連署のうえ、国土法二三条の規定に基づく届出をなしたときには、特段の事情が認められない限り、契約の履行に着手したものと解してさしつかえがなく、右特段の事情も認められない本件においては、前記(1)ないし(3)の事実が存在する以上、原告は、民法五五七条一項にいわゆる契約の履行に着手したものと解するのが相当である。

3 よって、原告の再抗弁1は理由があるから、被告らの手付け交付による解除権留保の抗弁は失当である。

三原告が、平成元年一一月三〇日、兵庫県知事からの同年一一月二八日付不勧告通知書を受領したことは、前記一2(五)で認定のとおりであり、また、当事者間に争いがない。

よって本件売買契約の停止条件は、これにより成就したものというべきである。

四なお、請求原因6の事実は当事者に争いがない。

そうすると、被告らに対し、本件山林について平成元年一〇月二四日売買を原因とする所有権移転登記手続を求める原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく正当として認容されるべきである。

五よって、原告の第一次的請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官三浦潤)

別紙物件目録

三田市三輪字大道平壱参〇壱番

一 山林 五参五五平方メートル

三田市三輪字大道平壱参〇参番

一 山林 六四四六平方メートル

三田市三輪字大道平壱参〇四番壱

一 山林 五八七九平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例